解き明かされ繋がっていく物語。2017年〈びっくら本〉紹介 #mybooks2017
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どうも、最近ブログ何書こうと思っていたところに良い題材が舞い込んできて素直に有難く思った怜香@Ray_mnzkです。
いや、割とマジで、あのバレットジャーナルの記事書いた後まるで記事が書けなくなっておりました。ネタは浮かんでもうまく書いていけない、そんな感じ。
そんな中、Twitterを見ていたら倉下先生の〈びっくら本〉企画が立ち上がったのを発見しまして。今年読んだ本の中で面白かったものを紹介しよう、という企画とのこと。
【企画】2017年の<びっくら本>を募集します #mybooks2017
さてさて、今年も<びっくら本>の季節がやってまいりました。 今年一年読んだ本を振り返り、面白かった本を紹介しよう!、というごくごく平凡な企画です。 …
いやはや、実に渡りに船でした。
何か気に入った本なかったかなと記憶を辿ると、この夏に自分でも驚くほどのめり込んだ小説があったのを思い出しました。
すべて同じ作家さんで、計5冊。うち4冊は同一シリーズ。いずれも寝る間も惜しんで読み耽った、見事に心を奪われたと言っても過言ではないぐらいの物語。
これを紹介せずして何とする。
……というわけで、2017年版私の〈びっくら本〉、小説オンリー5冊ご紹介致します!
目次
煌夜祭(多崎礼 著)
あらすじ
冬至の夜に人を喰らうという「魔物」が存在する世界、十八諸島。
ある冬至の夜、島々を遍歴する「語り部」ナイティンゲイルとトーテンコフが、今は廃墟となった島主屋敷へとやってきた。語り部たちが一堂に会しそれぞれの物語を語り合う祭、「煌夜祭」のために……。
数々の物語によって紡がれる「物語」
この物語は、語り部であるナイティンゲイルとトーテンコフが、交互に自分の持ち話を語っていくという形式をとっています。
ですが、ただ単にエピソードが紹介されていくだけではないのがこの物語のすごいところ。
最初はひとつひとつの話が独立しているように見えるのですが、読み進めるうちにそうではないことに気づいていきます。
物語と物語が、繋がっていくのです。
その中で、「あれ、もしかしてこれって……」という小さな謎が生まれてくることでしょう。
「これはもしかして、あの人のことなのでは?」
「これはもしかして、あのエピソードのことなのでは?」
そんな謎も、読み進めていくごとに少しずつ明かされていきます。そして最後まで読み終えた時、すべてが繋がっていることを悟るのです。
様々な人物の存在を、感情を感じて
こう書くとサスペンスかミステリーのように思えるかもしれませんが、推理モノというわけではありません。
考えて読むというよりは、感じながら読む物語です。ひとつひとつの物語自体、そこに生きる者達の悲痛な感情が充ち満ちていて、涙なしには読めませんから。
そして……語り部であるナイティンゲイルとトーテンコフもまた、例外なく物語の一員であることを知るでしょう。
久々に物語の世界に引き込んでくれた小説
この本は、長らくライトノベルから離れていた私が、久々にライトノベルを読みたくなって探していた時に出会った本です(ライトノベルじゃないんですけどね)。
最近はもっぱら物語に触れるのは舞台鑑賞においてのみで、小説すらご無沙汰になっていたところでした。なかなか心惹かれる小説に出会えなかったのです。
そんな中で、この物語は本当に久しぶりに私の魂を鷲掴みにしてくれました。なかなか、この十八諸島の世界から帰ってこれませんでしたから。
そして、この煌夜祭そのものの「語り部」(=作者)の紡ぐ物語を、もっと読んでみたいと思ったのです。
そんな思いに導かれるように次に手に取ったのが、この後紹介する「夢の上」という物語です。
夢の上(多崎礼 著)
シリーズのあらすじ
ある王城の玉座にて、一人の男が夜の王へと拝謁していた。男は「夢売り」と呼ばれる者。夢を抱いて生きた者の「夢」を封じ込めた結晶、彩輝晶に秘められた物語を語る「夢利き」を行う者であった。
王は男の求めに応じ、夢利きを行わせることにする。6つの彩輝晶により語られたのは、時空晶と呼ばれる灰色の結晶が天空を覆う王国サマーアで起こった、ある王子にまつわる壮大な「夢」の物語……。
夢の上(1) 翠輝晶・蒼輝晶
「翠輝晶」は、小領主の娘アイナが主人公。
十諸侯と呼ばれる大領主ツァピール候の嫡男オープのもとに嫁いだ彼女は、とある事故をきっかけに夫婦で諸国を遍歴することになる。
様々な経験を経て帰国した彼女たちの元に現れたサマーア神聖教国第二王子アライスとの出会いが、彼女たちの運命を大きく変えていくことになる。
「蒼輝晶」は、元流民の天才騎士アーディンが主人公。
彼はケナファ騎士団長にしてサマーア神聖教国最強の女騎士であるイズガータの右腕であり、彼女に密かに想いを寄せる日々を送ってきた。
しかし、ある日少女シアラが騎士団入りを求めてやってきたことで、その人生は大きく変わっていく。
夢の上(2) 紅輝晶・黄輝晶
「紅輝晶」は、第二王子アライスの母である光神王第二王妃ハウファが主人公。
かつて光神王の配下の者に故郷を滅ぼされた彼女は、光神王に復讐すべくその妃となる。
侍女アルティヤの献身もあり王子アライスを出産するが、そのアライスには命を懸けて守り通さねばならぬ重大な秘密があったのだった。
「黄輝晶」は、ケナファ騎士団長の従者であり生まれながらに特殊な能力を有した孤児ダカールが主人公。
その能力に日夜悩まされる彼は静かに目立たず生きることを望んでいたが、ある日騎士団にやってきた騎士志望の少女シアラと出会うことで生き方が変わっていく。
やがてシアラつきの騎士となった彼がとった行動、そしてその思いとは。
夢の上(3) 光輝晶・闇輝晶
「光輝晶」は、サマーア神聖教国の第二王子アライスが主人公。
生まれながらにして重大な秘密をもってしまった彼は、母ハウファとその侍女アルティヤにより守られながら成長していく。しかしやがてその秘密は暴かれ、彼は城を追われてしまう。
逃亡先でさまざまな人々と出会った彼はある決意を固めていく。やがて国を揺るがすことになるそれは、すなわち人々の希望でもあったのだが……。
「闇輝晶」は、サマーア神聖教国の第一王子にしてアライスの兄であるツェドカが主人公。
幼い日にアライスとその母ハウファに出会った彼は、二人に魅せられたことで王位継承者としての自分の生き方を変えていくことになる。
従者サファルと共に暗躍する彼の思惑と目的は一体どこにあったのか。
夢の上(4) サウガ城の六騎将
六つのエピソードがあり、主人公はそれぞれケナファ騎士団の師団長を務める六人の騎士たち。
それぞれの身の上や過去の物語を語りつつ、本編では描かれなかったエピソードもあわせて語られる。
その最後を飾るのは、蒼輝晶の主人公でもあった騎士アーディン。もとは流民であった彼の、本人でさえ知る由もなかった過去とは。
3巻目で完結、と思いきや……
物語本編としては3巻までで完結しており、4巻はいわば外伝という位置づけになっています。……が、実際4巻まで読んでみると、4巻でようやく完結だなという気分になってくるのが面白いところです。
1~3巻は、それぞれの主人公が語り手となって物語が進んでいきます。4巻には6つのエピソードがあり、それぞれ語り手と聞き手がいて、聞き手となった人物が次のエピソードの語り手となる形式になっています。
ひとつの夢が世界を変えていく、そんな物語
ひとりの王子が思い描いた「夢」が人々に希望を与え、やがて大きなうねりとなって国をも変えていく。この物語には、そんな「夢」の一部始終が様々な視点からつぶさに描かれています。
そしてその中で明かされる、「夢」の原点となる王子の想い。「夢」の上に築かれていったモノ。「夢」のために歩んでいった者達。
夢というものにはこれほどまでに人を、歴史を動かしていく力があるのかと思い知らされます。
様々な視点で描かれた物語が「大きな物語」を紡ぎ出す
全4巻、計12話のエピソードは、あるひとつの大きな物語を様々な人物・角度から描き出したものとなっています。
また、その切り出し方も主人公によって微妙に異なっていて、全てのエピソードを読むことで全貌が明らかになるようになっているのです。
それはたとえるなら、「大きな物語」が展開されている舞台において中心となる登場人物それぞれにスポットライトを当て、そのライトに照らされた範囲の物語を描いていった、というイメージでしょうか。
全てのスポットライトが当てられた時、舞台全体が照らされ、「大きな物語」のすべてを目にすることができるというわけです。
このような物語の描かれ方は、先に紹介した「煌夜祭」のそれに通ずるものがあります。実際、「煌夜祭」と同じく、物語全体の語り手と聞き手にあたる「夢売り」と「夜の王」もまた、物語の中の存在でもありますから。
もう続きを読まずにはいられない。現実世界に戻れなくしてくれた小説
先にも紹介した通り、この「夢の上」シリーズは「煌夜祭」を読み終わってすぐに手を出した小説です。
とにかく、本当に久々に寝る間も惜しんで読み耽った物語でした。読んでいたのが真夏のお盆の時期で、連休だったのをいいことに寝ても覚めてもひたすら読み続けていたのを思い出します。
第1~3巻はいずれも300ページ超え、番外編となる第4巻も200ページ超えとかなりボリュームのある長編だったのですが、ものの一週間足らずで全4巻を読み切ってしまいました。基本的に読むペースが遅い私としては過去に類を見ないスピード読破でしたね。
なにせもう、「続きを読まずにはいられない」状態にずっとなっていました。読書を切り上げたあとも、あの後どうなっていくのだろうと不安にも似た気持ちに駆られ、すぐに再び本を手に取ってしまう。その繰り返しでした。
私は学生時代から小説(特にライトノベル)が好きで、シリアス系現代ファンタジーを中心に色々と読んできましたが、ここまで物語の世界にのめり込んだ作品はほとんどありませんでした。「一刻も早く続きを読まなければならない」という強迫観念に似た衝動に駆られ続けていましたからね。
ある意味、恐ろしい物語です。極めて良い意味で。
ちなみに好きな人物は、ダカール、アーディン、ツェドカ、サファルですかね。みんな一癖二癖ありますね……
今日のあとがき
というわけで、今年の〈びっくら本〉を紹介してみました。
確か去年は長年のお気に入り小説を一冊紹介しただけでしたっけ。別館で。
今年はがっつり5冊(といっても4冊はシリーズものですが)。それもすべて小説です。やっぱり好きなのは小説だもの。
……というか、私の中では「本」といえば小説なのです。「読書」といえば小説を読むことなのです。実用書やビジネス書を読むのは、読書というよりは勉強という認識が強かったりします。
ここ数年は特に心惹かれる小説(というかライトノベル)にもほとんど出会えず、小説からも離れがちだったのですが……ようやく、本当に素晴らしい物語に出会えました。また読み返したいです。
ちなみに、「夢の上」舞台化してくれないかなという願望を抱いていたりします。宝塚だと月組がぴったりそうなんですよね。勝手に妄想配役していたりしますw
それでは、今回はこのあたりで。
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